西宮 不動産について思うこと
諮問会議の議事要旨によると、Hは現状の景気判断と米英のような構造改革の必要性を指摘したが、突き付けられた政策要請に対する反論は一切発言していない。
メディアには「N銀包囲網に総裁沈黙」などと書かれた。
同月九日の政策委の前日、八日発表の二○○○年七九月期の実質GDPの改定値はN銀に衝撃を与えた。
年率換算で当初の一・○%増から一・四%減。
三・四半期ぶりのマイナス成長に転じた。
つまり、前年のゼロ金利解除の決断は、マイナス成長下での決断だった。
主なマイナス要因は設備投資の鈍化で、同日の日経平均は一時一万三千円を割り込んだ。
副総裁のFは、二○○○年十二月八日の講演では、七九月期のGDP成長率が当初、年率換算で一・○%増だったことを指摘して、「ゼロ金利政策を解除した時の我々の判断の内容が数字でも裏付けられたと思う」と述べていた。
その改定値がマイナスに転じたことを受けて、Fが当初の裏付け論を修正したという発言は見当たらない。
Fは、一○○一年一月末の講演でも相変わらず、緩やかな回復という標準シナリオは崩れておらず、現行の金融市場調節方針を維持しつつ、改善余地を検討するとのFの認識は、H、Yとも共通するものだったのだろう。
Hも次にみるように、一月九日に政策変更した後の会見で、「マイナス成長下でのゼロ金利解除ではなかったか」と問われ、「(GDPは)振れの大きい統計であるだけに、これだけで景気のトレンドを判断することはできないと思う」と弁明している。
この時点でHらは、議長見解に応えて出てくる増洲らの事務局案によって、ゼロ金利解除の立場を強調している。
自由度を持ち、意外性をもって市場にどのようにコミットするかを検討して頂きたい」と念押しした。
ロンバート型貸出とは、欧州の金融界で中世から始まった担保付き貸し出しのこと。
元々は、北イタリアのロンバルディァ地方の商人たちが、手形割引による融資とは別の手法として開発した由緒ある手法だ。
その後、欧州各Cの民間向け資金供給策として根付き、現在の欧州C(ECB)でも政策手段の一つの常設ファシリティの中に位置づけられている。
日本版のロンバートの仕組みは次のようになる。
取引先の借り入れ需要を受けた金融機関が、N銀に対して申し込みを行う。
N銀は通常、金融市場の需給をみて自らの判断で資金調節をする。
だが、新制度ではN銀は、金融機関の申し込みを受けて受動的に貸し出す。
貸出金利は公定歩合で、適格担保をとる。
期間は翌日物だが、一定の日数までのロール・オーバー(借り換え)を認める。
同貸出の導入により、N銀が金融政策の誘導目標をコールレートにシフトして以来、アナウンスメン具体化。
時の判断を修正しなくても、他の政策で現状維持を補強できるとの思いを持っていたと思われる。
一方、N銀を反面教師と見立てた米FRBは、年初の緊急利下げに続いて、一月三十日にも○・五%の追加利下げに踏み切っていた。
金利政策を発動できるFRB、どん詰まりの状態でゼロ金利解除の責任回避と、追加緩和策の絞り出しの両方を求められたN銀。
執行部首脳が事実上の判断停止状態に陥る中で、増洲が主導するN銀の知恵袋たちは、考え得る限りの案を次々と捻り出していった。
期限とされた一月九日の会合では最初の回答が一つも用意された。
@ロンバート型貸出の導入A短期国債アウトライト・オペの積極活用B手形オペ(全店買い入れ)導入のただ、政策手段の多様化だけで、下振れリスクの高まる景気の先行き不安を抑えられると胸を張るほど、政策委たちは楽観していなかった。
ロンバート貸出の基準金利に公定歩合を据える制度が提示されたことで、公定歩合金利に委員たちの関心が集中した。
つまり、コールレート○・二五%の金融市場調節方針はそのままにしておいても、公定歩合金利(年○・五%)を引き下げれば、緩和効果をアピールできるのではという考えだ。
実は、この点も議長見解の宿題を解いた増洲以下の執行部事務方が想定していた反応だった。
複数の委員から質問が出た。
コールレートと公定歩合の金利差(その時点で○・二五%)をいくらに保てば、ターム物金利に引き下げ効果が及ぶか。
テーブル後列の座席に座った増測はすかさず答えた。
卜効果に限られていた公定歩合が新たな役割を担って浮上した。
つまり、ロンバート貸出金利となる公定歩合が、コールレート変動の上限となったのだ。
N銀が名付けた同貸出の正式名称は補完貸付制度。
しかし、これではパンチに欠ける。
伝統の名前を冠することで、意外性を演出したようだ。
次の短期国債アウトライト・オペは、売り戻し条件付きの現先オペとは違い、短期国債を買い切るもの。
このため、取引相手の金融機関に返済圧力がかからず、追加的な資金供給の可能性が拡大する。
手形オペは、N銀が適格と認める企業などの振り出し手形や国債などを担保として、オペ対象の金融機関が振り出す手形を買い入れる制度。
N銀は、地方の中小企業などにも安定的に資金供給するために、N銀の全支店で、同オペを実施する準備をしていたが、それを前倒し実施することとした。
いずれも、年度末に向けて資金繰り不安が高まることへの配慮だった。
政策委の全委員が三案の採用に賛成した。
次いで、複数の委員がコールレートの引き下げに言及した。
Tは「景気実態の変化に直面しても、N銀は動かないということで『硬直的」とみられることは避けるべきではないか」と述べ、公定歩合の下げ幅を○・二五%とする一方で、コールレートも○・一五%下げて○・一○%にする案を示した。
この案を受けるように、別の委員も、コールレートの小幅引き下げと、ロンバート型貸出などによるターム物金利引き下げ効果、公定歩合引き下げの同時実施を主張した。
「一つ一つの緩和効果は大きくないものの、同時実施により、それなりの効果が期待できる」という合わせ技案だ。
Uとみられる。
Nは、従来からのマネタリーベース・ターゲティングの主張を繰り返した。
結局、この三委員が議長案に反対した。
議長案は公定歩合を○・一五%引き下げて○・三五%とする一方、コールレートは現状のままとする内容。
TとNはともに独自議案を出した。
N案への表決は従来通りの一対八だったが、初の議案提示となったT案には三票の賛成票が投じられた。
審議委員(六票)だけでみれば、半数がT案に賛成したわけだ。
ロンバート型貸出など、執行部がひねり出した資金供給策だけでは不十分という危機感が票割れの根っこにあった。
委員たちの票の動きを見ながら増洲は思った。
「着地はまだ描ききっていない」。
すでに次の用意を始めていた。
「現状の金利差ではターム物金利を○・○五%程度引き下げる効果がある。
ロール・オーバーなどの前提で異なるが、仮に幅が○・一○%未満になると、相当程度、新制度が利用される可能性がある」「なるほど」と、委員たちは即座に公定歩合を○・一五%引き下げて○・三五%にする案を念頭に置いた。
ここで、意見が分かれた。
まずSが異議を唱えた。
新しい手法を導入するのだから、とりあえず現状の公定歩合水準で実施し、その後に改めて考えればいいと。
Sの真意は、追加緩和への反対だっ同日の午後三時十分ころ。
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